交渉前に決めておく3つのこと
  • 材料費以外も含めて、原価の変化を捉える
  • 商品・取引先別に、採算の悪化を確認する
  • 目標価格と、これ以上は譲れない価格を決める

前回の記事では、価格交渉セミナーでお伝えした実践ポイントをご紹介しました。今回から3回に分けて、値上げ交渉の準備、説明資料、断られた後の判断を具体的に整理します。

第1回のテーマは「原価」です。

値上げ交渉というと、まず「何%上げるか」を考えがちです。しかし、その前に必要なのは、現在の価格で何がどこまで賄えているかを知ることです。

材料費だけを見ても、必要な値上げ幅は分からない

製造業であれば材料費、サービス業であれば人件費が目につきやすいでしょう。ただし、取引を続けるために必要な費用はそれだけではありません。

  • 材料費・仕入高
  • 製造や業務に直接かかる人件費
  • 外注費
  • 運送費・荷造費
  • 電気代・燃料費
  • 設備の減価償却費や修繕費
  • 管理部門の人件費などの間接費

たとえば材料費の上昇を販売価格に転嫁できても、同じ期間に人件費や物流費も増えていれば、利益は以前の水準に戻りません。

最初から精密な原価計算を完成させる必要はありません。まずは直近の決算書と月次試算表を使い、どの費用が、いつから、どの程度増えたかを確認します。

全社平均から、商品別・取引先別へ絞り込む

全社では利益が出ていても、商品や取引先ごとに見ると、赤字の受注が隠れていることがあります。

確認したいのは、売上高の大きさだけではありません。売上から、その取引に直接増減する材料費、外注費、運送費などを差し引き、さらに人件費や設備費などをどの程度回収できているかを見ます。

取引先別の原価が把握できていない場合は、作業時間、出荷数量、売上高など、自社で継続して使える基準で共通費を配賦します。大切なのは、見かけだけ精密な数字を作ることではなく、同じ基準で採算の変化を追えるようにすることです。

まず売上の大きい商品や取引先から確認すれば、限られた時間でも影響の大きい取引を見つけやすくなります。

「値上げしなければ赤字になる水準」を確認する

原価を把握したら、現行価格のまま取引を続けた場合の利益を試算します。

ここで注意したいのは、「材料費を回収できればよい」と考えないことです。短期的には資金が回っているように見えても、固定費を回収できなければ、設備更新や賃上げの原資は残りません。

商品・取引先ごとに、少なくとも次の4つを並べます。

  1. 現在の販売価格
  2. 現在の原価と、上昇後の見込み原価
  3. これ以上は譲れない最低価格
  4. 必要な利益を確保するための目標価格

最低価格は、「この価格なら安心」という意味ではありません。これを下回る条件では継続が難しいと判断するための社内基準です。目標価格は、上昇した原価に加え、品質維持、賃上げ、設備更新などに必要な利益を踏まえて決めます。

「他社も上げている」ではなく、自社の数字で説明する

業界の価格動向や公的統計は、コスト上昇を客観的に示す材料になります。ただし、それだけでは自社が希望する値上げ幅の説明にはなりません。

「材料費が上がったため」から一歩進めて、材料費、人件費、物流費などが自社の売上に占める割合と、それぞれの上昇率を整理します。すると、なぜその改定率が必要なのかを、自社の数字で説明できます。

交渉の目的は、強い言葉で相手を説得することではありません。取引を続けるために必要な条件を、双方が検討できる形にすることです。その出発点が原価の把握です。

次回は、今回整理した数字を、取引先が判断しやすい1枚の資料にまとめる方法をご紹介します。

価格交渉に必要な原価や取引先別採算を整理したい方は、お問い合わせフォームよりご相談ください。