- どの原価が、いつから、どれだけ上がったか
- 希望する新価格、改定率、実施時期
- 値上げ幅の計算根拠
- 価格以外に見直せる取引条件
- 回答期限と、次に協議したい日
第1回では、材料費だけでなく、人件費、外注費、物流費、間接費まで確認し、最低価格と目標価格を決めるところまでご紹介しました。
次は、その数字を取引先にどう伝えるかです。
資料を厚くすれば、説得力が増すとは限りません。最初の1枚で、何が変わり、いくらを、いつから希望するのかが分かるようにします。詳しい明細や公的統計は、質問を受けたときに示せる別紙として準備しておきます。
1.原価が「いつから、何によって、どれだけ」変わったか
「諸物価高騰のため」だけでは、取引先は値上げ幅が妥当か判断できません。
材料費、人件費、外注費、物流費など、影響の大きい費目に絞り、基準時点と現在を比較します。自社の仕入実績や請求書に加え、官公庁や業界団体の公表データを添えると、社内事情だけではない客観的な変化を示せます。
公表資料を探す際は、中小企業庁の価格交渉・転嫁の支援ツールも参考になります。
2.希望する新価格と改定時期を明記する
資料には、少なくとも次の内容を明記します。
- 対象となる商品・サービス
- 現行価格と希望する新価格
- 改定率
- 希望する実施日
- 見積価格の有効期間
「できるだけ早く」「応相談」といった表現だけでは、相手側の社内決裁を進めにくくなります。まず自社の希望を具体的に示し、その後の協議で調整します。
3.値上げ幅の計算根拠を示す
原材料価格が20%上がったからといって、販売価格をそのまま20%上げる根拠にはなりません。
たとえば、材料費が売上高の30%を占め、その材料費が20%上昇した場合、売上高に対する影響は6%です。同じように人件費、外注費、物流費などの影響を計算し、必要な利益を加えて希望価格を検討します。
1枚の資料には計算結果と考え方を簡潔に載せ、費目別の詳細は別紙にします。これにより、取引先の担当者は社内で説明しやすくなります。
4.価格以外の代替案も用意する
希望価格の満額回答が難しい場合に備え、採算を改善できる条件を整理しておきます。
- 発注ロットを大きくし、段取り替えや配送の回数を減らす
- 納期に余裕を設け、残業や特急対応を減らす
- 仕様や検査項目、包装方法を見直す
- 支払条件を短縮し、資金負担を軽くする
- 値上げ幅や実施時期を段階的にする
重要なのは、単なる値引き案にしないことです。条件変更によって自社の負担がどれだけ減るかを計算し、価格と同じように採算で判断します。
生成AIは「下書き」と「整理」に使う
生成AIは、依頼文のたたき台、資料構成の整理、長い公表資料の確認箇所を探す用途には役立ちます。ただし、次の点には注意が必要です。
- 顧客名、契約書、現在の取引単価などの機密情報を安易に入力しない
- AIが示した数値や出典は、必ず元の公表資料で確認する
- 自社に都合のよい根拠を作らせない
- 最終的な価格と交渉方針は、自社の責任で判断する
社名や取引条件を伏せた仮の数字で構成案を作り、確認済みの情報に差し替える方法が安全です。
取適法は、協議のルールを確認する基礎知識
取適法は、希望する価格を自動的に認めてもらうためのものではありません。適用対象となる取引では、中小受託事業者が価格協議を求めたにもかかわらず、委託事業者が協議に応じない、必要な説明をしないまま一方的に代金を決める、といった行為が問題になります。
したがって、「法律があるから値上げを認めてほしい」と迫るのではなく、まず根拠と希望条件を示して協議を申し入れることが実務の基本です。適用範囲や禁止行為は取引内容によって異なるため、公正取引委員会の取適法・振興法の案内で確認してください。
次回は、値上げを断られたときの条件変更と、取引継続・撤退の判断方法を取り上げます。
値上げ資料の作成や交渉前の数字整理については、お問い合わせフォームよりご相談ください。
